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「考える技術・書く技術」 板坂元、講談社現代新書、p192
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ハンリー・ノリンズのザ・コンプリート・コピーライター(Hanley Norins, The Complete Copywriter)にコピーライターの参考文献として十ヵ条をあげているが、そのはじめの三ヵ条は
1 シェークスピアを読むこと
――シェークスピアは言葉がいかに効果的であるかを教える。
2 ヘミングウェーを読むこと
――ヘミングウェーは言葉がいかに簡潔でありうるかを教える。
3 ホワイトのザ・エレメント・オブ・スタイルを読むこと
――言葉の一つ一つの正しい使い方を教えてくれる。
となっている。第四以下は、雑誌・TV・映画など書籍以外のものだ。3については、受け身のところで例としてあげたが、日本文を書く上にも、すばらしい参考書である。また、ヘミングウェーを読むことは、たとえ翻訳でも役に立つと思う。たとえば、『武器よさらば』で主人公が女主人公キャサリンと別れる場面(邦訳、岩波文庫本、上巻203-4頁)は性交を暗示する会話がかわされるけれども、一言も扇情的な形容詞はでてこないし、地の文は一行もない。しかも、セックスの場面としてのなまなましい印象は、抜群ということができる。また、この小説の書き出しのパラグラフは、色をあらわす形容詞以外は形容詞がまったく使われておらず、しかもこの小説全体の悲哀・怒り・やるせなさを、あますところなく暗示している。できるなら辞書片手にでも原文を読んでほしいが、コピーライターの必読文献としてヘミングウェーの名が出ているのは、偶然のことではない。
そして、コピーライターのためだけではなく、形容詞を削りとる参考書としても、ヘミングウェーはもっともすぐれている。
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