批判こそが創造につながる――吉見俊哉さん

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「情報とどう向き合うか 大学は教えるべき――批判こそ創造生む」
東大大学院情報学環長・吉見俊哉さん
【夕刊文化】2006.11.29 日経新聞(夕刊)
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インターネットの普及で、必要な情報が手軽に
入手できる現代。メディアなどの研究で知られ
吉見俊哉・東大大学院情報学環長は、大学は
どう情報と向き合うかという方法論を教えるべ
きであると説く。
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世界各地で様々なデジタル・アーカイブが作られ、それがインターネットで結ばれることで、デジタル空間に膨大な知識や情報が集積されている。さらにグーグルなど検索システムの発達によって、誰でもその知識にアクセスできるようになった。それに伴って、これまで代表的な知の集積地だった大学の存在が揺れている。必要な知識はネットで探せばよいということになれば、大学は単なる資格付与機関になってしまうからだ。

最近の学生や若い研究者を見ていると、知識をいち早く得る能力は確かに優れていると思う。ただ、あっという間に入手できてしまう分、どうやって情報にたどり着いたのかは自分でもわからない。森でリンゴを見つけることはできても、そこに至るまでの道は分からない、まして地図は描けないといった印象だ。この「どうやったら」という方法論こそが学問にとって大事であり、現代の大学が教えなくてはならないことだと考えている。

■方法論を身につけるには互いの意見を
 ぶつけ合う健全な論争が必要だとみる。

膨大な情報が飛び交う現在は、早く結論を出そうとするあまり、論争する時間なんてもったいないと考えている人々が多いようだ。インターネット上で激しい論争が起こることがあるが、匿名によるものが多いため、責任ある発言になりにくい。

そこで私が4年前から大学院のゼミに取り入れたのは「吉見俊哉をたたきのめせ」という講義。これまで私の書いてきた論文に関して、院生たちに批判させるものだ。目の前にいる教師の“悪口”を言うのだからハードルは低くないが、それによって論文を読み取る力をつけるとともに、既存の研究に対する自分の立ち位置を確認してほしいと考えている。批判こそが創造につながるのだ。

■東大大学院情報学環は、国内外で構築
 させる様々なデジタル・アーカイブを連関
 させる「新しい百科全書」プロジェクトに
 取り組んでいる。

「百科事典」を意味する「エンサイクロペディア」は、明治初期には思想家の西周によって「百学連環」と訳されていた。私たちが見指しているのは、まさに「新百学連環」。政治学者、経済学者、社会学者、民族学者、工学者など多様な研究者が一つの環(わ)となる運動体をイメージしている。「新しい百科全書」プロジェクトでも、作り上げていく過程が重要だと考えている。

18世紀のフランスでは、ディドロダランベールといった知識人と官吏、医師、軍人など現場を知る人々が、百科事典の編纂(へんさん)を通じて盛んに交流した。それがフランス革命につながったとの見方もある。環境など専門的な知識だけでは解けない問題が増えている21世紀に、彼ら百科全書派のような文化運動を復活させたい。

(聞き手は文化部 中野稔)

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吉見俊哉(よしみ・しゅんや)
東大大学院情報学環長、社会学者。57年生まれ、東大院修了。
著書に「都市のドラマトゥルギー」「カルチュラル・ターン、
文化の政治学へ」など。
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